IoTの無線通信規格・Sigfoxについて

DXSP部 アジャイル推進U・デジタル開発GではIoTに関する技術探索を行うチームを立ち上げ、IoT周辺の技術調査や案件への応用に取り組んでいます。IoT技術は急速に進化しており、特に東京ガスの事業領域で革新的なソリューションを提供する可能性を秘めています。そのため、私たちはIoTを重点的に取り上げ、その可能性を探求することにしました。

この記事では、以下の内容についてご紹介します:

  1. 無線通信の規格について
  2. Sigfoxとは
  3. Sigfoxの特徴
  4. Sigfoxを選んだ理由
  5. Sigfoxの使い方
  6. まとめと今後の展望

ここでは、IoTデータの通信に使われるいくつかの無線通信規格について紹介するとともに、現在IoT技術検証で使っているSigfoxという規格を取り上げてその特徴や使い方について説明します。


無線通信の規格について

ネットワークに無線で接続すると聞くとWi-Fiや5G通信が真っ先に思い浮かぶと思いますが、それ以外にも数多くの通信規格が存在しIoT機器との通信に使われています。下の図は無線通信規格をグループ化し、通信距離と通信速度を基準に配置したものになります。(出典: AWS - IoT 向け無線ネットワーク技術とAWS アーキテクチャの接続方法を学ぶ

Wi-Fi, セルラー

Wi-Fiならインターネット回線を用意しアクセスポイント(ルーター)を設置する必要があります。携帯電話回線を使って通信するセルラー方式 (4G, 5G) ではアクセスポイントは必要ありませんが、回線契約を結びSIMカードをIoTデバイスに取り付ける必要があります。
また、Wi-Fiセルラーでは高速で大容量なデータをやり取りすることが可能です。その一方、場合によってはIoTのセンサーなどが扱うデータは数バイト~数キロバイトで十分なこともあり、バッテリーを小型化させたり長時間動作させたりしたいケースにはそぐわない可能性があります。

PAN

パソコンと周辺機器をつなぐ用途でよく使われるBluetoothを含む、PAN(Personal Area Network)を構成する無線通信の規格のグループです。他にはBluetooth Low Energy, Zigbeeなどがあります。
これらの技術で構成された数センチ~数メートルの範囲を持つPANの中では、様々な電子機器が双方向に通信することが可能になりますが、インターネットに接続するためには何かしらのゲートウェイが必要になります。

LPWA

LPWAは低消費電力で10~100Kmといった長い距離の通信を実現できる技術です。その分通信速度はWiFiセルラー通信より劣ります。1回あたり送信できるデータサイズにも10バイト~数百バイトなどの制限がかかるので、画像や動画を送ることは難しいですが、例えばセンサーの測定値など文字情報のIoTデータを送信する場合には適しています。
低消費電力のためIoTデバイスを電池で長期間動かし続けることも可能なため設置環境の制約も緩くなります。また、長距離通信が可能なため山間部や大規模な工場など広いエリアで通信を行いたい場合もWi-Fiセルラーより安価に手軽に実現することができます。
LPWAにはLoRaWANやSigfox, NB-IoT, ELTRESなど様々な規格が存在します。


Sigfox

IoT技術探索チームではIoTシステムの実証実験(Proof of Concept、略してPoC)を実施しており、デバイスからのデータ送信にはLPWAの一種であるSigfoxを利用しています。

Sigfoxの特徴

SigfoxはUnaBiz社が世界的に展開しているLPWAネットワークであり、日本国内では京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCSS)が電気通信事業者としてSigfoxのサービスを提供しています。
Sigfoxがカバーしている関東付近のエリアは2025年6月現在で以下の通りで都市部はほぼ網羅していると言えそうです(出典: サービスエリア|IoTネットワーク「Sigfox」 )。

Sigfoxの特徴について、以下箇条書きで記します。

  • 回線契約を行い、Sigfox対応のデバイスを導入するかSigfox通信用モジュールを基盤に組み込むかすれば通信ができるようになる。別途ゲートウェイなどを用意する必要はない。
  • 回線契約は1年単位で1デバイス分から結ぶことができる。2025年6月現在、一日あたり70回までのメッセージ送信ができる回線を1台分契約すると年間で814円だった。
  • 一度の送信で送ることができるペイロードは最大12バイトなので、温度や位置情報などサイズが小さいセンサーデータを送信することに特化している。
  • 通信はSigfoxデバイス起点の上り通信のみが基本で、バックエンド側との双方向通信は原則サポートされていない。
  • 送信したデータは全国に置かれているSigfoxの基地局を経由し、Sigfox CloudというSigfoxが独自に用意しているクラウド環境に保存され、ポータルサイトから確認できる。
  • コールバックという機能を使ってSigfoxクラウドで受け取ったデータをAWSなどのクラウドや、別のアプリケーションサーバーに転送することができる。

Sigfoxを選んだ理由

今回作成しているPoCに求められていた要件と、なぜSigfoxを選んだのかについて以下に記載します。

  • 現場の通信環境: デバイスを設置する環境にはWi-Fi環境がなく、その条件下でもセンサーデータをインターネットに送信する必要があった。Sigfoxなら、対応するモジュールをデバイスに組み込み、インターネット上で回線を購入さえすれば、簡単かつ安価に通信を実現することができた。
  • 通信量などの条件: データとしては0 or 1の二値変数だけを取り扱えばよいうえ、一日に送信する回数も1デバイスあたりせいぜい数十回であることが予想された。Sigfoxで送れるデータサイズは最大12バイトで一日あたりの送信可能回数は最大でも140回であるが、この条件でも十分送信できた。
  • 通信の単方向性: Sigfoxを使ってデバイス-サーバー間の双方向通信を実現するのは難しいが、今回はデバイスからクラウド側へ単方向的にデータを送信するだけで十分だった。
  • 省電力性: デバイスに電源を供給できるような設備があるかどうか不明で、電池駆動させる可能性があった。SigfoxならWi-FiLTEなどと比べて消費電力がかなり低く抑えられるので、電池駆動の場合の寿命も伸ばすことが可能だった。
  • 手軽さ、料金: PoC的なIoTシステムを検討しており数か月程度動かすことができれば十分だったので、ゲートウェイ等の設備を用意する必要なく、Sigfoxモジュール(5000円/1デバイス 程度)と回線契約(800円/1デバイス1年 程度)さえ購入すれば動かすことができるSigfoxは、他のLPWAと比べても安価に済むと考えられた。

Sigfoxの使い方

ここでは私たちのチームが実際にSigfoxを使った通信をするために行った作業をまとめます。

モジュールと回線の購入

Sigfoxに対応したデバイスやモジュールを購入する必要があります。私たちはBRKLSM100というSigfox通信用のモジュールを購入し、Arduinoというマイコンボードに取り付けることにしました。
回線契約はSigfox Buy ポータルで行えます。デバイス数が999台以下の場合、1デバイス1年間あたりの料金は2025年06月時点で以下の通りです (税込み)。

一日あたりの最大メッセージ送信数 2 一日あたりの最大メッセージ送信数 70 一日あたりの最大メッセージ送信数 140
Atlas Native なし ¥671 ¥814 ¥1221
Atlas Native あり ¥990 ¥1133 ¥1540

(ただし、Atlas NativeはSigfox基地局をベースとしてデバイスの位置を測定するサービス)

バイスと回線の紐づけ

回線を購入しSigfoxクラウドのアカウントを作成すると、Sigfoxクラウドの画面上で契約を確認することができるようになります。 また、Sigfox対応のモジュールやデバイスを購入するとDevice IDとPAC(認証コード)がついてくるので、それらをSigfoxクラウドから入力することでデバイスを登録することができます。
登録したデバイスと回線契約は、以下画像のようにSigfoxクラウド上で紐づけることができ、その設定を行えばSigfoxの通信ができるようになります。

Arduinoへのモジュールの取り付け

Arduinoというマイコンボードに購入したSigfoxモジュールを取り付け、モジュールとシリアル通信を行いデータを送信するプログラムを書きます。汚いですが、下画像の赤く囲まれた部分がSigfoxモジュール、青い部分がArduinoになります。(この写真ではジャンプワイヤーでつなげていましたが、現在ははんだで固定しています。)

Sigfoxポータルで確認

用意したプログラムをマイコンで動かし、Sigfoxを使ってデータを送信してみます。Sigfoxのクラウドで受信したデータは下のようにSigfoxクラウドの画面から確認することができます。

AWS IoT Core との連携

Sigfoxのコールバックという機能を活用し、IoTデータはAWS IoT Coreへ転送しています。IoT CoreはIoTデータを収集するためのエンドポイントを提供し、様々なAWSのサービスと連携することができます。今回のPoCとしては、最終的にS3にデータを保存し、Grafanaによる可視化やCSVのダウンロードができるようにしました。

まとめ

  • LPWAは低消費電力で長距離通信が可能な無線通信規格の総称であり、IoTにおける長距離通信に向いている
  • Sigfoxを使ってみた感想
    • 手軽にコストを抑えながら長距離通信を実現することができる
    • バイスの登録やAWSとの連携の設定もシンプルで分かりやすい
    • まず小規模でIoTシステムを始める際も導入しやすい
    • データサイズや送信回数、双方向性などの制約をクリアしているかは注意が必要

今後の展望としては、このSigfoxを用いたIoTシステムの実証実験の結果を基に、実際の案件への応用を検討していきます。また、他のLPWA技術との比較検証も行い、各案件に最適な通信規格の選定にも役立てていく予定です。IoT技術は日々進化しているため、常に最新の技術動向をキャッチアップし、より効率的で革新的なソリューションの開発に取り組んでいきます。